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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第39章 第十五話 【静かなる月】 其の壱
 お美杷がいなくなってからも、喜六郎は容赦ない厳しい指導を続けた。それでも、ふっとした隙に、お彩が虚ろなまなざしであらぬ方を見つめたり、特に理由もないのに涙ぐんだりするのを知らぬ喜六郎ではなかった。
 そんな時、喜六郎はかえってお彩に追い立てるように用事を言いつけたり、新しい料理の献立に挑戦させたりした。この頃では、客に出す料理の三割方くらいを任せて貰えるほどにまで成長している。
 料理の道にかけては人一倍厳しい喜六郎だが、その喜六郎が見どころがあると言うだけのことはあり、勘も呑み込みも良い。それに、天性の閃き―何の道にしろ、これがいちばん大切なのだが―、お彩には、板前としての才覚が元々備わっており、それを見抜いたのが喜六郎であった。
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