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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第39章 第十五話 【静かなる月】 其の壱
 愛娘を手放して放心状態であったお彩に、殊更暇を与えなかったのは、喜六郎なりの思いやりであった。人間、何もすることのない時間というものは、かえって色々と余計なことを考えるからというのが喜六郎の持論であった。
 だが、そんな喜六郎も今日ばかりは流石にお彩に必要以上の用事を言いつけようとはしなかった。というのも、お彩があまりに心ここにあらずといった体であったからだ。始終考え事に耽っている風情で、何か言いつけても話しかけても、ろくな返事が返ってこない。そんなことの繰り返しで、とうとう、店の方も昼飯のかき入れ刻が終わったこともあり、お彩に少し二階(うえ)で休むようにと勧めたのである。
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