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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第39章 第十五話 【静かなる月】 其の壱
「花がすみ」は二階屋で一階が店舗と板場、それに二階に二間あった。二階は一つが喜六郎の寝室兼居間であり、隣の部屋に、お美杷が乳飲み子の頃はよく寝かしていたものだ。この部屋は、喜六郎の一人娘小巻が嫁入り前まで私室として使っていた場所でもある。
普段から息をつくまもなく忙しく立ち働いているお彩であったが、それでも時として、束の間、この部屋で休憩を取ることがある。ここにいると、殊に離れ離れになった娘のことが思い出され、つい涙さしぐまれるのであった。
黒目がちな大きい眼を涙でいっぱいにして泣いていた乳呑み児の頃、這い這いでお彩の後を追いかけ回していたばかりの頃、一歳近くなり、漸くつかまり立ちを始め、覚束ない足どりで伝い歩きを始めたばかりの頃―。京屋へ引き取られたときには、まだ一人歩きはできず、伝い歩きの真っ最中であった。
普段から息をつくまもなく忙しく立ち働いているお彩であったが、それでも時として、束の間、この部屋で休憩を取ることがある。ここにいると、殊に離れ離れになった娘のことが思い出され、つい涙さしぐまれるのであった。
黒目がちな大きい眼を涙でいっぱいにして泣いていた乳呑み児の頃、這い這いでお彩の後を追いかけ回していたばかりの頃、一歳近くなり、漸くつかまり立ちを始め、覚束ない足どりで伝い歩きを始めたばかりの頃―。京屋へ引き取られたときには、まだ一人歩きはできず、伝い歩きの真っ最中であった。