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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第39章 第十五話 【静かなる月】 其の壱
あれから四月(よつき)、もう一人でちゃんと歩けるようになっているだろう。
少し離れた場所に立ち、両手をひろげた姿勢で、向こうから歩いてくるあの子を思い切りこの腕に抱きしめてやることができたら。
けれど、今の自分には、お美杷を抱きしめることができない。そう思うと、お彩の胸に苦いものが押し寄せた。
つい今し方も風に舞う淡紅色の花びらを眼で追っていただけなのに、お美杷のことを思い出してしまった。こんな状態では駄目だ、もっと無心になって板前としての修業に打ち込まねばと我と我が身を叱咤してはみるけれど、いつも空しい努力に終わってしまう。
少し離れた場所に立ち、両手をひろげた姿勢で、向こうから歩いてくるあの子を思い切りこの腕に抱きしめてやることができたら。
けれど、今の自分には、お美杷を抱きしめることができない。そう思うと、お彩の胸に苦いものが押し寄せた。
つい今し方も風に舞う淡紅色の花びらを眼で追っていただけなのに、お美杷のことを思い出してしまった。こんな状態では駄目だ、もっと無心になって板前としての修業に打ち込まねばと我と我が身を叱咤してはみるけれど、いつも空しい努力に終わってしまう。