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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第39章 第十五話 【静かなる月】 其の壱
「お彩ちゃん」
 呼び声に、ゆるゆると振り向く。いつしか、喜六郎が障子戸を開けて佇んでいた。
「たった今、筆屋のおとみさんが随明寺の桜餅を持ってきてくれたんだ。丁度、店の方も今は一段落ついてるところだから、お茶にしねえか」
 振り向いたお彩の白い頬には、幾筋もの涙の跡がある。その様を見た喜六郎はハッとした表情(かお)になったが、すぐに見ないふりを決め込み何げなく続けた。
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