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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第39章 第十五話 【静かなる月】 其の壱
「おとみさんもあれで口が悪くなけりゃア、倅夫婦ともうまくゆくだろうになァ。根は悪(わり)ィ人じゃなし」
筆屋のおとみというのは、「花がすみ」の近所の婆さんである。小さな筆屋を一人で細々と営んでいるのだが、この婆さん、滅法口が悪いときている。この界隈では毒舌で有名で、遠慮会釈もなくずけずけと物を言うので、誰からも煙たがられている。
年の頃はそろそろ六十近く、二十年近くも前から、たった一人の倅やその嫁、子どもとは折り合いが悪く、別居していた。周囲は、倅夫婦に同情的だが、喜六郎の言うように、根っからの悪ではない。むしろ、あまりに物の道理を真っ向からズバリと言い当て、ついてくるので、皆から敬遠されるようになったと言った方が良いだろう。
筆屋のおとみというのは、「花がすみ」の近所の婆さんである。小さな筆屋を一人で細々と営んでいるのだが、この婆さん、滅法口が悪いときている。この界隈では毒舌で有名で、遠慮会釈もなくずけずけと物を言うので、誰からも煙たがられている。
年の頃はそろそろ六十近く、二十年近くも前から、たった一人の倅やその嫁、子どもとは折り合いが悪く、別居していた。周囲は、倅夫婦に同情的だが、喜六郎の言うように、根っからの悪ではない。むしろ、あまりに物の道理を真っ向からズバリと言い当て、ついてくるので、皆から敬遠されるようになったと言った方が良いだろう。