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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第40章 第十五話 【静かなる月】 其の弐
 おとみが気の毒げに言う。
「きいさんは、富久三の出した証文に何が書かれてるのかは判らずじまいだったけど、店を抵当にあいつが金を借りることには承知したって言ってたよ」
「そんな馬鹿な」
 お彩は信じられなかった。「花がすみ」は喜六郎にとって生命にも等しき大切な店ではないか。それを抵当に入れるなぞ、およそ考えられなかった。
「もしかしたら、富久三の奴が雲隠れしちまったんじゃないのかねえ?」
 おとみが小首を傾げた。
「あの日、あいつが雲隠れするんじゃないかって、心配してたよ。そんな心配するほどなら、何でわけの判らない証文なんぞに名前を書いちまったのかねえ」
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