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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第41章 第十五話 【静かなる月】 其の参
 そう、あの日、高利貸しの肥前屋に行った時、自分は自分にできる精一杯のことをすると決意したのだ。喜六郎と「花がすみ」を守り抜くためには、いかなる想いにも耐えてみせる、と。
 確かに自分は一匹のちっぽけな蟻かもしれないけれど、蟻にもできることはある、と。
 蟻は自分の身体よりもはるかに巨大な獲物を運ぶことがある。見た目よりもはるかに逞しく賢く強い生きものなのだ。
 自分を侮るこの男(肥前屋)を見返してやる。どうせお彩に吉原へゆく覚悟なぞありはしないのだと端から見くびっている傲岸な男の意表をつき、男の言葉どおり吉原へ行き、この男から借りた三十両、きっちりと耳を揃えて返してやる!!
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