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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第41章 第十五話 【静かなる月】 其の参
 その意気込みで、まさに乗り込んできたはずだったのに、この身体の震えはどうしたことだろう。
 空が宵闇の色に染まり始めると、吉原遊廓は一挙に活気づいて、昼間の静けさが嘘のように生き返ったようになる。
 とうとうその瞬間(とき)が来た。
 お彩は紅絹の夜具の傍で両手をついて初めての客を迎え入れた。極彩色の襖が静かに音もなく開き、やがて閉まる。
 今宵の客がお彩の前に佇んだ。
 ひそやかな衣ずれの音が宵の底に響く。客がお彩の眼前にどっかりと腰を据えるのが気配で伝わってきた。
「馬鹿なことをしたものだな」
 その声に、雷に打たれたような衝撃が全身を貫いた。
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