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第41章 第十五話　【静かなる月】　其の参

「いつまでも子どもだと思い込んでたのに、お前はとうに私を追い越して、一人ではるか彼方を歩いてるんだな。私は迂闊にも、そのことに今まで気付きもしなかった。何が〝氷の京屋〟だ。聞いて、笑わせやがる。惚れた女の心一つ読めねえで、とんだ食わせ者だ」
　市兵衛が自嘲めいて言った。まるで吐き捨てるようなその口ぶりに、お彩は微笑んだ。
「そんなことはないわ。陽太さん。あなたは本当は心の優しい男(ひと)。けして〟氷〝なんかじゃない。あなたがその心に抱えているのは冷たい氷なんかではなくて、あなたにしか咲かせることのできない、たった一つの花よ」
「私にしか咲かせることのできない、たった一つの花」