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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第41章 第十五話 【静かなる月】 其の参
派手やかな装飾の閨の中でただ一カ所だけ、清新な雰囲気を醸し出している場所―、市兵衛の視線は自然にそこに吸い寄せられていた。小さな床の間に備前の火襷(ひだすき)の一輪挿しがあり、黄金(こがね)色の花がひと枝活けられている。
山吹であった。しなった枝先にたっぷりとついた黄色の花が可憐で清楚な佇まいを見せている。
そういえば、お彩の源氏名(遊女名)は「山吹」であったことを、市兵衛は、今更ながらに思い出していた。自分の女房である女が女郎という状況に、どうも今一つ順応し切れていないようであった。
山吹の花の後ろには、いずれの能書家の手蹟か、流麗な仮名文字が躍るように並んでいる掛け軸がかかっている。惣籬には劣るが、流石に半籬の対面を保つだけの趣のあるしつらえであった。
山吹であった。しなった枝先にたっぷりとついた黄色の花が可憐で清楚な佇まいを見せている。
そういえば、お彩の源氏名(遊女名)は「山吹」であったことを、市兵衛は、今更ながらに思い出していた。自分の女房である女が女郎という状況に、どうも今一つ順応し切れていないようであった。
山吹の花の後ろには、いずれの能書家の手蹟か、流麗な仮名文字が躍るように並んでいる掛け軸がかかっている。惣籬には劣るが、流石に半籬の対面を保つだけの趣のあるしつらえであった。