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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第6章 其の参
 呟くと、男が微笑した。
「ホウ、久しぶりに懐かしい台詞を聞いたよ。心の花、か。そうだな、盗人扱いされた私は頭に来て、店を飛び出したんだよ。そして、住み慣れた長屋に舞い戻った。後でその金は手代が遊ぶ金欲しさに盗んだと判って、私にかけられた嫌疑は晴れたが、私はもう二度と店には戻らないと決めていた。そんな私にここで逃げたら、それこそ自ら罪を認めることになる。挫けずに店に戻って、いっぱしの商人になれと言った女性がいた。たとえ他人がどう思うと、自分の心の中に自分だけのきれいな花を咲かせれば良いと言ったんだよ。私が今こうしていられるのも、そのひとのお陰のようなものかな」
 男の口調には、懐かしむような響きがあった。
 もしかしたらという予感がお彩の中で閃いた。
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