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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第45章 第十六話 【睡蓮】 参
お彩の眼裏に、生きたいと泣いていた少年の姿が蘇る。次いで、おみよの言葉が耳奥で響いた。
―旦那さまが生きよう、生きたいと思われる気持ちをお持ちになれば―。
医者は助かる見込みはあると言ったという。ならば、生きてと、お彩は心の底から市兵衛に呼びかけた。
―お願い、私とお美杷のために生きて。帰ってきて、私の許に。
お彩は市兵衛の顔を見つめながら、懸命に呼びかけ続けた。きれいな顔に長い睫(まつげ)が翳を落としている。
部屋の障子戸はすべて開け放しており、縁の向こうには庭が見渡せた。池の方で蛙が鳴いているのが、どこか物哀しく聞こえる。
―旦那さまが生きよう、生きたいと思われる気持ちをお持ちになれば―。
医者は助かる見込みはあると言ったという。ならば、生きてと、お彩は心の底から市兵衛に呼びかけた。
―お願い、私とお美杷のために生きて。帰ってきて、私の許に。
お彩は市兵衛の顔を見つめながら、懸命に呼びかけ続けた。きれいな顔に長い睫(まつげ)が翳を落としている。
部屋の障子戸はすべて開け放しており、縁の向こうには庭が見渡せた。池の方で蛙が鳴いているのが、どこか物哀しく聞こえる。