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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第8章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の弐 
 眼を背けて通り過ぎるには、この問題はあまりに大きすぎた。お彩にとって、伊八と過ごしたこれまでの年月、伊八を父として慕った十七年間は我が身の生きてきた証であった。もし、あの彦七という男の言葉が真実であれば、何ゆえ、父が実の子でもない自分を育てることになったのか。そして、お彩の実の父は今どこにいるのか。母お絹と真の父だという男との拘わりは―。
 伊八に訊きたいことは山ほどもある。真実から逃げることはできない。伊勢次のように敢えて何も知らぬふりを装って、これまでどおりの親子関係を続けることも考えてはみた。それも一つの生き方だ。だが、お彩にとって、伊八という父の存在はけして良い加減にはできぬものであった。伊勢次のように器用な、否、大人の生き方はできない。
 愕くべきことに、伊勢次はわずかに七歳の時、それだけの分別を身につけていたのだ。
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