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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第8章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の弐
そっと表の腰高障子を開けると、見慣れた光景が眼に飛び込んできた。
狭い四畳半ひと間の片隅で背を向けて一心に仕事に励む父親。その広く大きな背中を子どもの頃からずっと眺めて育ってきた。お彩にとって、伊八は絶対的な存在だった。
父がいたからこそ、自分は今、こうしてここにいる。生きている。
「おとっつぁん」
声をかけると、伊八の動きが止まった。
ゆったりとした調子で振り返る。
「おう、どうした」
伊八が屈託ない笑顔を浮かべる。いつもと何ら変わりない父の笑顔に、お彩はどこかホッとした安堵を憶えた。
「あの桜餅食べたの?」
さりげなく訊ねると、伊八は小さく頷いた。
「ああ、多少形が崩れてはいたが、美味しかったよ。やっぱり、桜餅は随明寺のがいちばんだな」
狭い四畳半ひと間の片隅で背を向けて一心に仕事に励む父親。その広く大きな背中を子どもの頃からずっと眺めて育ってきた。お彩にとって、伊八は絶対的な存在だった。
父がいたからこそ、自分は今、こうしてここにいる。生きている。
「おとっつぁん」
声をかけると、伊八の動きが止まった。
ゆったりとした調子で振り返る。
「おう、どうした」
伊八が屈託ない笑顔を浮かべる。いつもと何ら変わりない父の笑顔に、お彩はどこかホッとした安堵を憶えた。
「あの桜餅食べたの?」
さりげなく訊ねると、伊八は小さく頷いた。
「ああ、多少形が崩れてはいたが、美味しかったよ。やっぱり、桜餅は随明寺のがいちばんだな」