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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第8章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の弐
あのお彩が持参した桜餅は地面に落としたせいか、少々形がいびつになっていた。それでも、伊八はとっておきの茶を淹れて、ゆっくりと味わいながら桜餅を食べた。
この八日間、伊八もまたお彩と同様に葛藤の日々を過ごしていた。十七年間、手塩にかけて育ててきたお彩である。お絹の腹にお彩が宿っていると知ったそのときから、お彩は紛れもなく伊八の子であった。たとえ、その子が自分の種ではないと端から判りきっていても、伊八には我が子だとしか思えなかった。
が、彦七が訪ねてきた日、お彩が必ずしもあのやりとりを耳にしたとは限らず、自分の方からお彩に出生に拘わる話を切りだして良いものかと悩んでいたのだ。
「ねえ、おとっつぁん、一つだけ訊きたいことがあるの」
お彩は、あたかも今日の天気の話をするように言った。たとえ何を父から聞かされても、絶対に感情的になったりはしないと固く心に誓っていた。
この八日間、伊八もまたお彩と同様に葛藤の日々を過ごしていた。十七年間、手塩にかけて育ててきたお彩である。お絹の腹にお彩が宿っていると知ったそのときから、お彩は紛れもなく伊八の子であった。たとえ、その子が自分の種ではないと端から判りきっていても、伊八には我が子だとしか思えなかった。
が、彦七が訪ねてきた日、お彩が必ずしもあのやりとりを耳にしたとは限らず、自分の方からお彩に出生に拘わる話を切りだして良いものかと悩んでいたのだ。
「ねえ、おとっつぁん、一つだけ訊きたいことがあるの」
お彩は、あたかも今日の天気の話をするように言った。たとえ何を父から聞かされても、絶対に感情的になったりはしないと固く心に誓っていた。