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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第8章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の弐
伊八は吐息混じりに言った。
「お前を身籠もったと知った時、おっかさんは黙って家を出たんだよ」
伊八は遠い眼で淡々と語り続ける。
「そうさな、江戸からそう遠くはない小さな村だったっけ。おっかさんは、そこに隠れ住んでいたんだ。たった一人でお前を生み、一人だけで赤ン坊を育てていくつもりだった」
お彩の頬をひとすじの涙が流れ落ちた。
不幸にも犯され、自分を強姦した憎い男の子を身籠もった母。誰にも頼れなくて、孤独に生きる道を選ぼうとしていた―。そのときの母の心を思うと、切なかった。
そして、自分がけして祝福され望まれて誕生したのではないと知り、お彩は暗澹とした想いに囚われた。いや、望まれるどころか、呪われた宿命を生まれながらに背負っているようなものではないか。もし、お彩を身籠もることがなければ、母は苦しむことはなかっただろう。
「お前を身籠もったと知った時、おっかさんは黙って家を出たんだよ」
伊八は遠い眼で淡々と語り続ける。
「そうさな、江戸からそう遠くはない小さな村だったっけ。おっかさんは、そこに隠れ住んでいたんだ。たった一人でお前を生み、一人だけで赤ン坊を育てていくつもりだった」
お彩の頬をひとすじの涙が流れ落ちた。
不幸にも犯され、自分を強姦した憎い男の子を身籠もった母。誰にも頼れなくて、孤独に生きる道を選ぼうとしていた―。そのときの母の心を思うと、切なかった。
そして、自分がけして祝福され望まれて誕生したのではないと知り、お彩は暗澹とした想いに囚われた。いや、望まれるどころか、呪われた宿命を生まれながらに背負っているようなものではないか。もし、お彩を身籠もることがなければ、母は苦しむことはなかっただろう。