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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第9章 第四話 【ほたる草】 一
それも一度ならず二、三度、偉兵衛らしき男が同じ女と一緒に連れ立って歩いていたのを確かに見たという。
その女は深川の海産物問屋の内儀であり、むろん、れきとした亭主持ちである。三十そこそこの、やはり妖艶な色香を漂わせる美貌であった。
話の終わりに、喜六郎は憤懣やる方なしといった様子で言った。
「偉兵衛さんが小巻の我がままや気の強いのによく我慢してくれたことには感謝してはいるが、小巻も敬次郎を生んでからは変わった。今はあいつはあいつなりに大和屋の良い嫁になろうと努力している。それなのに、遊廓の女郎に現を抜かしてばかりいやがるたァ、俺は許せねえ。これまでの小巻は小巻として、今の、これからのあいつを見てやって欲しいと思ってるんだがな。
その女は深川の海産物問屋の内儀であり、むろん、れきとした亭主持ちである。三十そこそこの、やはり妖艶な色香を漂わせる美貌であった。
話の終わりに、喜六郎は憤懣やる方なしといった様子で言った。
「偉兵衛さんが小巻の我がままや気の強いのによく我慢してくれたことには感謝してはいるが、小巻も敬次郎を生んでからは変わった。今はあいつはあいつなりに大和屋の良い嫁になろうと努力している。それなのに、遊廓の女郎に現を抜かしてばかりいやがるたァ、俺は許せねえ。これまでの小巻は小巻として、今の、これからのあいつを見てやって欲しいと思ってるんだがな。