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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第9章 第四話 【ほたる草】 一
偉兵衛さんがあくまでも、喜久乃ってえいう女郎と切れねえというのなら、俺は小巻を大和屋から連れ戻しても良い。ましてや、亭主持ちのよその女房と深間になるなんざァ、一体どういう了見をしてるのか、俺なんぞにはてんで見当もつかねえや」
偉兵衛の二親は健在で、小巻は良人の両親と共に暮らしている。大和屋は構えはさして大きくはないが、数代前から続いている老舗であり、良い品を売ると評判の店である。そのお店に飯屋の娘が嫁いだのだから、世間から見れば「玉の輿」には相違ない。
しかし、喜六郎にとって、小巻は大切な一人娘だ。偉兵衛の両親はかねてから気の勝った小巻とは上手くいっておらず、殊に姑のおつなとは犬猿の仲であった。小巻が八カ月で早々に「花がすみ」に戻ってきたのも、実は、おつなと小巻の仲があまりに険悪なのに偉兵衛が手を焼いたからでもあった。
偉兵衛の二親は健在で、小巻は良人の両親と共に暮らしている。大和屋は構えはさして大きくはないが、数代前から続いている老舗であり、良い品を売ると評判の店である。そのお店に飯屋の娘が嫁いだのだから、世間から見れば「玉の輿」には相違ない。
しかし、喜六郎にとって、小巻は大切な一人娘だ。偉兵衛の両親はかねてから気の勝った小巻とは上手くいっておらず、殊に姑のおつなとは犬猿の仲であった。小巻が八カ月で早々に「花がすみ」に戻ってきたのも、実は、おつなと小巻の仲があまりに険悪なのに偉兵衛が手を焼いたからでもあった。