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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第9章 第四話 【ほたる草】 一
おつなの言葉は、打ちひしがれる小巻の心を容赦なく粉々にした。日頃から自分が一人息子を甘やかしていることなぞ知らぬ風、偉兵衛の行いのすべてが小巻のせいだと言わんばかりの言いぐさであった。
喜六郎としては大切な娘をこうまで無下に扱われては、見過ごしにできない。そして、ついに今朝、小巻は堪忍袋の緒を切らして、大和屋を飛びだしてきた。
偉兵衛は昨日も一晩中、吉原へ出かけていて、朝まで帰ってこなかったと、小巻が泣きながら打ち明けたという。
「俺としちゃア、小巻をこのまま大和屋なんぞに帰してやりたくはねえが、生まれたばかりの敬次郎のこともあるからなあ。敬次郎をあの歳で父(てて)無し子にはできねえし、それに大和屋にとって、敬次郎は大切な跡取りだ。当然ながら、敬次郎だけは返してくれと言ってくるに違えねえ」
喜六郎としては大切な娘をこうまで無下に扱われては、見過ごしにできない。そして、ついに今朝、小巻は堪忍袋の緒を切らして、大和屋を飛びだしてきた。
偉兵衛は昨日も一晩中、吉原へ出かけていて、朝まで帰ってこなかったと、小巻が泣きながら打ち明けたという。
「俺としちゃア、小巻をこのまま大和屋なんぞに帰してやりたくはねえが、生まれたばかりの敬次郎のこともあるからなあ。敬次郎をあの歳で父(てて)無し子にはできねえし、それに大和屋にとって、敬次郎は大切な跡取りだ。当然ながら、敬次郎だけは返してくれと言ってくるに違えねえ」