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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第10章 第三話 【ほたる草】 其の弐
 三十前の美しい男が佇んでいる。二、三度遠目に見たことがあるので、小巻の良人偉兵衛だとすぐに判った。どうやら偉兵衛の方は女房の実家に奉公する女中の顔なぞ記憶にないようで、物珍しげな様子でお彩をしげしげと見つめてきた。
「ほたる草もこうして間近で見ると、なかなか粋で風流なものだねえ。やはり、綺麗な女性と眺めると、道端の雑草までいつもとは違って見えるものなのだろうか」
 藍の着物をすっきりと着こなした男は長身で、いかにもお店の若旦那といった風情だ。流石に役者に似ていると女たちから騒がれるだけあって、市井ではついぞ見かけぬほどの男ぶりだ。ほたる草とは露草のまたの名であり、いじらしい風情の愛らしい花にはふさわしい。
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