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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第10章 第三話 【ほたる草】 其の弐
 秋の縁日市は特に「大祭」と呼ばれ、あまたの僧侶が金堂で読経した後、紅白の餅を参詣人に向かって投げ与える。この中に「寿」「福」「浄」「徳」の文字が入っていれば、その餅を得た者はその一年の幸と安寧を約束されると云われていた。
 お彩の母お絹はこの広大な随明寺の墓地の一角に眠っている。その日は特に母の命日というわけではなかったが、お彩は月初めの命日以外にもよく墓参に訪れた。
 随明寺の山門に至るには長くて勾配のきつい石段を辿らねばならない。人呼んで「息継ぎ坂」と呼ばれるこの石段を降りた先に小さな茶店があって、随明寺名物として名高い桜餅はここでしか買えない。
 この茶店がある他は、門前の道は昼間とて通る者もなく、月に一度の縁日市や大祭の他は常に閑散としていた。それを当て込んでか、この道を少しいった先には出合茶屋が何軒か軒を連ねている。
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