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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第10章 第三話 【ほたる草】 其の弐
出合茶屋は言わずと知れた待合―、つまり男女がひそかに逢瀬を重ねる場所で、お彩はいつもここを通る度に何とも居心地の悪いものを感じずにはいられなかった。
ひっそりと静まり返った小さな建物は、ちょっと見には小料理屋と見違えそうな造りになっているが、外からは人の気配は殆ど感じられない。
この中で何組もの男女が密事(みそかごと)を重ねているのかと考えただけで、お彩は居たたまれぬ想いに囚われ、いつも逃げるようにその前を通り過ぎ、幾つかの建物が見えない場所まで来ると、漸く安堵するのだった。それは恐らくお彩が生娘ゆえの男女のことに関する本能的な恐怖もあったろうが、この随明寺の門前道の出合茶屋がひしめく界隈には、確かにそういう場所に特有の淫靡な雰囲気が漂っていた。
ひっそりと静まり返った小さな建物は、ちょっと見には小料理屋と見違えそうな造りになっているが、外からは人の気配は殆ど感じられない。
この中で何組もの男女が密事(みそかごと)を重ねているのかと考えただけで、お彩は居たたまれぬ想いに囚われ、いつも逃げるようにその前を通り過ぎ、幾つかの建物が見えない場所まで来ると、漸く安堵するのだった。それは恐らくお彩が生娘ゆえの男女のことに関する本能的な恐怖もあったろうが、この随明寺の門前道の出合茶屋がひしめく界隈には、確かにそういう場所に特有の淫靡な雰囲気が漂っていた。