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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第2章 第一話-其の弐-
ふいに男の手が伸び、お彩の白い頬に触れた。それはほんの束の間の出来事で、お彩当人でさえ、それが現(うつつ)のことなのかどうか定かではなかった。だが、男は確かにお彩の頬に触れたのである。
 再び沈黙が降りた。その間、男は静かな眼でお彩を見つめていた。お彩はその視線を受け止めかね、視線をあらぬ方にさまよわせた。
 突如として、男が沈黙を破った。
「どうやら、小降りになったようだ。私はこれで失礼しますよ」
 物腰も穏やかで物言いも商人らしいものだったが、やはり、どことはなしに翳のある男であった。男が手拭いを返して寄越すのを受け取る。
 男は店の戸を開けた。
「では」
 と、まだ降り止まぬ雨の中に飛び出していった。
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