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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第13章 第五話 【夏霧】 其の弐
橋の下を流れるのは名前さえない、ささやかな川だ。松平さまのお屋敷がよく見渡せる川原には一本の桜の樹がひそやかに佇んでおり、春にはそれは見事な眺めであった。夏の今は濃い緑が強い陽差しに照りつけられ、心なしか葉が萎れて元気を失っているように見える。
今日、お絹は日本橋の大和屋まで届け物をした帰り道であった。喜六郎に頼まれ、娘の小巻に西瓜を届けてくるためであった。何でも大和屋の跡取り偉兵衛と小巻の長男敬二郎が夏風邪を引いたとかで、その見舞いの品だという触れ込みであった。五月半ばに生まれた敬次郎は、そろそろ生後三ヶ月を迎えようとしている。高熱が出て、なかなか下がらないと聞き及び、喜六郎はわざわざ八百屋から上物の西瓜を取り寄せたのだ。
今日、お絹は日本橋の大和屋まで届け物をした帰り道であった。喜六郎に頼まれ、娘の小巻に西瓜を届けてくるためであった。何でも大和屋の跡取り偉兵衛と小巻の長男敬二郎が夏風邪を引いたとかで、その見舞いの品だという触れ込みであった。五月半ばに生まれた敬次郎は、そろそろ生後三ヶ月を迎えようとしている。高熱が出て、なかなか下がらないと聞き及び、喜六郎はわざわざ八百屋から上物の西瓜を取り寄せたのだ。