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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第13章 第五話 【夏霧】 其の弐
―遠いのに、わざわざ、ありがとう。おとっつぁんによろしくね。また、その中、敬二郎が落ち着いたら顔を見せにゆくから。
以前の小巻なら絶対に口にせぬような台詞を微笑んで言われ、お彩は、本当に変わったものだと思った。小巻はお彩に座敷に上がって冷えた麦湯でも呑んでゆくように勧めてくれたのだけれど、お彩は丁重に辞退して、そのまま引き返した。それでなくとも、店が忙しいというのに、こんな場所で油を売ってはいられない。今頃、喜六郎は一人できりきり舞いをしているだろう。
ゆえに、和泉橋を渡った際も、早足で通り過ぎようとしていた。が、丁度、松平さまのお屋敷が少し手前に見えてきた時、桜の樹の下に佇む女の後ろ姿が眼に止まった。
以前の小巻なら絶対に口にせぬような台詞を微笑んで言われ、お彩は、本当に変わったものだと思った。小巻はお彩に座敷に上がって冷えた麦湯でも呑んでゆくように勧めてくれたのだけれど、お彩は丁重に辞退して、そのまま引き返した。それでなくとも、店が忙しいというのに、こんな場所で油を売ってはいられない。今頃、喜六郎は一人できりきり舞いをしているだろう。
ゆえに、和泉橋を渡った際も、早足で通り過ぎようとしていた。が、丁度、松平さまのお屋敷が少し手前に見えてきた時、桜の樹の下に佇む女の後ろ姿が眼に止まった。