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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第13章 第五話 【夏霧】  其の弐
―お二人は明日、夜が明ける前には江戸を発つと言いなすってましたよ。
 お彩がなおも言っても、喜六郎はただ茫然としているばかりだった。愛孫の敬二郎の具合がすっかり良くなったと聞いたことさえ、このときの喜六郎は既に頭にはないようだった。
 結局、喜六郎は夜四ツに掛行燈の火を落とした後、一人で板場に籠もって、おきみと承平のための弁当をこしらえた。そして、それを持って、今朝、陽が昇る前にここに来たのだ。お彩もその時刻に合わせて「花がすみ」に来て、喜六郎の伴をした。
 それが今の喜六郎なりの精一杯の心だった。お彩には喜六郎の気持ちが痛いほど伝わってきた。
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