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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第2章 第一話-其の弐-
 そう言ってから、お彩は改めて自分の言葉を反芻した。
―ここに来ると、不思議と安らげるんだよ。
 二十七、八歳ほどに見える男には妻子はいないのだろうか。どこにいるよりもここに来るとくつろげると言ったあの男の瞳の奧に揺れるの孤独の影であった。お彩には判る。
 それは、彼女が男と同様に孤独に苛まれているからに他ならない。実の父に恋い焦がれ、父から遠ざからねばならぬという宿業を持つお彩だからこそ、男の内に抱える凄まじいまでの孤独や悲壮感を感じ取ることができたのだ。
 改めて自分はあの不思議な男について何も知らないのだと気付く。
 お彩は男のことが知りたかった。どこに住んで、何という名で、女房がいるのかどうかも。
 そして、男がお彩に囁いたあのひと言も耳奧に灼きついて離れない。
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