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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第15章 第六話 【春の雨】  其の弐
 お彩にとって、陽太はあまりにも現実感のない世界にいる。名前も知らぬ、どこの誰とも知らぬ男、数ヶ月にたった一度しか逢えぬ男の何をどう信じれば良いのだろうか。
「本気だと思えないのなら、思わせてやれば良いのか」
 刹那、陽太に強い力で抱きすくめられ、お彩は身を強ばらせた。
「止めて、何を―」
 抗う暇もなく、きつく抱きしめられ、唇を重ねられた。あまりに深く長い口づけだったので、お彩は息苦しさに喘いだ。その隙を逃さず、わずかに開いた口に陽太の舌先が侵入する。口中で陽太の舌のうごめきが嫌悪感だけではない何かをお彩の中にもたらそうとしていた。そうだ、この感覚はあのときと同じ―、いつか烈しく口づけられたとはと全く同じものだ。
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