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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第17章 第七話 【雪花】 其の弐
 いや、京屋市兵衛がお彩の後を追おうなぞとしないはずだと、お彩は最初から判っていたはずだった。なのに、何をどう間違って期待などしてしまったのだろうか。お彩はまたしても自分自身を嗤った。
 ここまで来ても、なお、自分が陽太、否、京屋市兵衛を信じようとしていることに我ながら呆れていた。京屋ほどの男がなにゆえ、お彩のような小娘を相手にする必要があるだろう。男は女を口説くためには何でも平気で口にする。殊に女を知り尽くした男であればあるほど、甘い砂糖菓子のような台詞を罪の意識もなしに平然と囁けるものだ。
 そんなことくらいは、世間知らずのお彩だとて知っている。京屋市兵衛は、あたかも飢えた子どもに菓子を投げ与えるように、お彩にそんな実のない言葉を与えたのだ―。
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