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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第18章 第七話 【雪花】 其の参 
 そのことを、お彩が思い出したのは、いつのときだったのか。「陽太」に手を引かれて出合茶屋の長暖簾をくぐったときだったかもしれない。
 お彩は知っていた。惚れた男には、既に女房がいることを。しかも陽太の女房は、陽太を丁稚から京屋の旦那にまで引き上げた恩義のある先代の娘であった。そのことからも、お彩は、この関係が長くは続かないであろうことを半ばではあるが意識していた。それでも、陽太に抱かれたのは―ただ、この刹那の自分の陽太を想う気持ちを、陽太のお彩を求める気持ちを、互いに求め合う気持ちに嘘はつきたくなかったからだ。
 だから、こうなったことに悔いはなかった。
 むしろ、後悔するより、今は、ひと刹那だけでも良いから、この小さな幸せと歓びに浸っていたかった。
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