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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第20章 第八話  【椿の宿】 其の弐
 なかなかに風雅な人柄のようで、派手な作りのいかにも出合茶屋らしい部屋の中に、その場所だけいつもこのような心遣いがあった。季節の花々を絶やさぬ、たったそれだけのことで、何故かお彩はいくばくかでも心救われる想いになるのだ。
 市兵衛との烈しいひとときを過ごした後、お彩は歓びよりも空しさと哀しさを感じ、いつもちりあくたのように身も心も疲れてしまう。これがあれほど求め、心から慕った男とのなれの果てなのかと考える度に、あまりの淋しさとやるせなさにいっそのこと死んでしまいたいとさえ思う。
 身体の感じる歓びは確かに市兵衛の言うように、逢瀬を重ねる度に深まっているだろう、しかし、お彩の心はその逆に逢瀬を重ねるほどにしんと冷えていった。
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