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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第20章 第八話  【椿の宿】 其の弐
 その日になった。
 京屋市兵衛との次の約束の日まで、お彩は心の中で幾度も葛藤を繰り返した。一体、自分がいかなる道を取るべきか見当もつかないでいた。
 今もってなお、お彩の奥底には、市兵衛への想いが絶えることのない川のように流れていた。無理もない、十九年の生涯で初めて心から愛した男であった。「花がすみ」の最奥の席で一人、杯を傾ける市兵衛を見たその刹那、恋に落ちてから、既に四年近くの月日が流れていた。その名前さえ知らず、一途に慕い続けた日々の中には、様々なことがあった。
 お彩が何かしら悩みを抱えているときには必ず決まってどこからともなく姿を現し、折々にふさわしい助言をくれ励ましてくれた。
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