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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第20章 第八話  【椿の宿】 其の弐
 気が遠くなるほどの沈黙があった。が、実際には、たいした刻(とき)は経っていなかっただろう。
 市兵衛が冷めた瞳でお彩を見据えた。
「何故、来なかった? 私はあの日、いつもの場所でずっとお前さんを待っていた。夕刻、陽が落ちる時分まで愚かにも待ち続けて、挙げ句に待ちぼうけを食らわされた。そのときになって、初めて、自分が約束をすっぽかされたのだと判ったよ」
 その言葉には自嘲めいた響きがある。お彩はその声音に絶望を感じ取った。お彩の中で言い知れぬ哀しみが湧いた。自分はこの男の、市兵衛の中の孤独を少しでも癒したいと願っていたはずなのに、結果として、かえってそれを軽くするどころか、余計に彼を傷つけてしまったのだ―。
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