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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】 其の壱
「綺麗」
女主人がうっとりとしたように呟き、簪に魅入った。伊八のかつての師匠喜作は江戸でも名人と謳われたほどの職人であり、その名人技を余すところなく引き継いだ伊八の手になるものも逸品だ。女主人は今にも秋の風に揺れそうな桔梗の花をしげしげと見つめた。
「ありがとうございます。まさか、飾り職でいらっしゃるとは思いもしませんでした。よろしいのですか、このような立派なお品を頂戴しましても」
少し心配そうに言うのに、伊八は笑った。
「そんなにおっしゃって貰うほどのたいそうなものじゃありませんよ。歓んで頂けたのなら、それだけで良かったです。それじゃあ、俺はこれで」
伊八は言うだけ言うと、くるりと背を向けた。その時、いささか滑稽なほどに急いで帰ろうとする伊八の腹がグッーと鳴った。
女主人がうっとりとしたように呟き、簪に魅入った。伊八のかつての師匠喜作は江戸でも名人と謳われたほどの職人であり、その名人技を余すところなく引き継いだ伊八の手になるものも逸品だ。女主人は今にも秋の風に揺れそうな桔梗の花をしげしげと見つめた。
「ありがとうございます。まさか、飾り職でいらっしゃるとは思いもしませんでした。よろしいのですか、このような立派なお品を頂戴しましても」
少し心配そうに言うのに、伊八は笑った。
「そんなにおっしゃって貰うほどのたいそうなものじゃありませんよ。歓んで頂けたのなら、それだけで良かったです。それじゃあ、俺はこれで」
伊八は言うだけ言うと、くるりと背を向けた。その時、いささか滑稽なほどに急いで帰ろうとする伊八の腹がグッーと鳴った。