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第21章 第九話　【夫婦鳥～めおとどり～】　　其の壱

　背後で、女主人が吹き出す。伊八はこれ以上は赤くはなれないほどに狼狽えた。
　簪を仕上げるのに夢中になっていて、昼飯を食べるのを忘れていた。食べ忘れたそのことすら失念していた有り様だった。まるで初めて恋を知った少年のような自分に、伊八は自分でも戸惑いを隠せない。こんなことは、お絹を失ってから、ついぞなかった。
「もしかして、お昼がまだお済みではないのですか？　良かったら、急いで握り飯でもこしらえますから、お待ちになってて下さいな」
　伊八は信じられないといった表情で振り向いた。