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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】 其の壱
というのも、お彩には惚れた男がいて、その男京屋市兵衛は江戸でも名の知れた大店の主人である。伊勢次は市兵衛が京屋の主であることを知らないが、最初から市兵衛を翳のある得体の知れぬ男だと嫌っていた。お彩が市兵衛に惚れていることを知っていてもなお、あの男はお彩を不幸に陥れるだけだと繰り返し諦めるように忠告してきたのである。
伊勢次は、もうかなり前からお彩に惚れていて、所帯を持とうと言っていた。伊勢次は近頃には滅多とおらぬほど真面目で誠実な男だし、腕の良い左官だ。お彩に寄せる想いも真剣で、生涯の伴侶には申し分ないといえた。にも拘わらず、お彩は伊勢次ではなく京屋市兵衛を選んだのだ。
伊勢次は、もうかなり前からお彩に惚れていて、所帯を持とうと言っていた。伊勢次は近頃には滅多とおらぬほど真面目で誠実な男だし、腕の良い左官だ。お彩に寄せる想いも真剣で、生涯の伴侶には申し分ないといえた。にも拘わらず、お彩は伊勢次ではなく京屋市兵衛を選んだのだ。