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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】 其の壱
たとえ、その言葉が市兵衛の心からのものであったとしても、果たして京屋を捨てた市兵衛とお彩が夫婦になったとして、上手くいっただろうかと疑問に思う。市兵衛は京屋の先代の息子ではなく、娘婿である。しかも丁稚として京屋に奉公に入り、その利発さや人柄を認められて婿養子におさまったのだ。
市兵衛は陽太と呼ばれていた幼少時は甚平店に住む鋳掛け屋の倅であった。両親のように一生その日暮らしの裏店住まいで終わるのが嫌で、商人になりたくて京屋に奉公に出たのだ。
しがない鋳掛け屋の倅が江戸でも随一の老舗にして大店の呉服問屋の主に―女ならば、俗に言う「玉の輿」である。先代は既に亡くなっており、市兵衛の女房である先代の娘も病死したと、これは初めて愛を交わした日、他ならぬ市兵衛自身から聞かされた。
市兵衛は陽太と呼ばれていた幼少時は甚平店に住む鋳掛け屋の倅であった。両親のように一生その日暮らしの裏店住まいで終わるのが嫌で、商人になりたくて京屋に奉公に出たのだ。
しがない鋳掛け屋の倅が江戸でも随一の老舗にして大店の呉服問屋の主に―女ならば、俗に言う「玉の輿」である。先代は既に亡くなっており、市兵衛の女房である先代の娘も病死したと、これは初めて愛を交わした日、他ならぬ市兵衛自身から聞かされた。