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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】  其の壱
―女房はいねえ。正確に言えば、五年前に病で亡くなったよ。
―本当の私を知ったら、お前さんはきっと―。
 あの時、降りしきる雪を出合茶屋の二階から二人して眺めながら、市兵衛は確かに言った。あの先に続く言葉を聞くことはなかったけれど、一体、あれは何を意味していたのだろう。
 京屋の主人であるとその素性が知れた今ですら、市兵衛は依然として謎めいた部分が多い。
 「花がすみ」の奥まった席で一人盃を傾ける市兵衛をひとめ見たその瞬間から、お彩は市兵衛に惹かれた。市兵衛の眼(まなこ)には救いようもないほどの孤独が揺らめいている。そして、その孤独の翳りこそが伊勢次が市兵衛を嫌う原因でもあった。
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