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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】 其の壱
いわば、市兵衛は京屋の先代の主人には言葉に尽くせぬ恩義がある身だ。そんな市兵衛が幾ら先代の娘である女房が亡くなっているとはいえ、おいそれと後添えを娶るのは難しいに違いない。むろん、京屋の親類筋一同が認めた相応のお店のお嬢様なら別ではあろうが、お彩のような裏店住まいの娘がいきなり大店の内儀におさまるなぞ夢のまた夢だった。所詮、市兵衛とお彩とでは住む世界が違うのだ。
つまりは、そのことがお彩が市兵衛との別離を決めた最大の理由であった。今でも市兵衛に惚れている。その気持ちは少しも変わってはいない。時々、市兵衛のあの温もりに包まれ、親鳥に抱かれた雛のような安らぎをもう一度感じてみたいと無性に思うけれど、それは未練というものだと自分を戒めていた。
そんなときには泣きたいだけ泣くことを自分に許していた。
つまりは、そのことがお彩が市兵衛との別離を決めた最大の理由であった。今でも市兵衛に惚れている。その気持ちは少しも変わってはいない。時々、市兵衛のあの温もりに包まれ、親鳥に抱かれた雛のような安らぎをもう一度感じてみたいと無性に思うけれど、それは未練というものだと自分を戒めていた。
そんなときには泣きたいだけ泣くことを自分に許していた。