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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第3章 第一話-其の参-
 その後、日は流れたが、あの男が「花がすみ」に姿を現すことはなかった。図らずもお彩が随明寺の奥座敷で感じた別離の予感は的中したことになる。
 あの男は一体、何者なのだろう、母と一体どのような拘わりがあの男との間に存在したというのだろう?
 お彩の中にまた新たなる疑惑が生まれた。
男が母の命日やお彩が母の娘であることを知っていた―、その事実はお彩を驚愕させた。お彩は随明寺の住職徳全に男の氏素性について問い質してみたけれど、当然ながら、徳全は一切語らなかった。和尚から辛うじて引き出せたのは、男がかつて和尚の教え子であったという事実だけであった。もっとも、男が小僧として随明寺で修行していたというわけではなく、まだ少年の頃、請われて読み書きを教えていたにすぎないという。
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