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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第3章 第一話-其の参-
 随明寺の住職ほどの人物に指南を依頼するとは、相当に財力と地位のある家の子弟に相違なく、男の言葉は少なくとも、その点に関してだけは偽りではなかったことになる。
 それに、何より、お彩の気になるのは、男にまとわりつく翳であった。あの男は哀しい眼をしていた。最後に随明寺で逢ったときには一瞬だけ屈託ない笑顔を見せたが、「花がすみ」に来たときは大抵暗い、ひどく淋しそうな眼をしていた。
―お前さんが哀しそうな顔ばかりしているのを見るのが忍びなくてね。
 男はああ言ったけれど、もしかしら、お彩の中の孤独の匂いをあの男は敏感に嗅ぎ取ったのかもしれない。何故なら、男もまた孤独な魂を身の内に抱えているから。
 お彩自身はまだ与り知らぬことだが、お彩には重大な秘密があった。それは彼女自身の出生に拘わることであった。
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