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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第23章 第十話 【宵の花】  其の壱
 今はただ、すべてのものが懐かしい。「花がすみ」のけして立派な店とはいえないけれど、どこか温もりのある佇まい。馴染み客たちとの打ち解けたやりとり。
 叶うならば、あの場所に戻りたい。お彩はゆるりと辺りを見回した。女性の部屋らしい造りの小座敷は、小さい床の間には唐渡りらしい花器が置いてあり、桜のひと枝が活けてある。隅には紫檀の小机、違い棚には美しい蒔絵を施した文箱が無造作に置かれていた。
 どの調度を取っても、これまでのお彩の生活には無縁だったものである。市兵衛はずっとこんな贅沢な品々に取り囲まれた生活が当たり前の人だった。自分が京屋での日々のこのような抵抗感を憶えることは、あらかじめ覚悟はしていた。そんな違和感をも乗り越えてみせるとも思っていた。
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