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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第23章 第十話 【宵の花】  其の壱
 市兵衣の眼は暗く、底知れない池のように危険な光を放っていた。
 いつもの優しくて穏やかな市兵衛とは全く別の男のように見え、お彩は初めて市兵衛に恐怖を感じた。
「お前さま―」
 だが、お彩の言葉は途中で空しく途切れた。覆い被さってきた市兵衛が狂おしいほどに唇を重ねてきたからだ。市兵衛は、手足を突っ張って抗うお彩の抵抗を難なく封じ込めた。夜陰の中に帯を解く音、衣ずれの音がひそやかに妖しく響く。
 その夜の交わりは、お彩がかつて経験したことのないほどの烈しく奔放なものとなった。気の早い雀が庭でさえずり始めた頃、市兵衛は満足げな面持ちで部屋を出ていった。
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