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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第23章 第十話 【宵の花】  其の壱
 市兵衛にはもう二年も前から若菜太夫という馴染み女郎がいたのだ。市兵衛が女房として迎えたかったのは、この自分ではなく若菜太夫の方だったのではいなだろうか。
 市兵衛という男は、やっとその心に近付いたと思った途端に、するりと身を交わして逃げてゆくような気がする。水は掬うことはできても、じっと持ちつづけることはできない。それと同じだ。
 ふとそんな想いがお彩の脳裡をよぎった。良人のいなくなった寝覚めの床で、お彩は一人声を押し殺して泣いた。
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