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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第24章 第十話 【宵の花】  其の弐
 その日の夕刻、お彩は産婆のおすみの住まいから出てきた。自分がどこをどう歩いているのかすら判らぬほど上の空で歩いている中に、いつしか町外れの和泉橋のたもとまで来ていた。
 川のほとりにひっそりと佇む桜の大樹の下に立ち尽くし、お彩は前方に見える老中松平様の宏壮なお屋敷に虚ろな視線を投げた。
―もう四月(よつき)になるねえ。今まで気が付かなかったのかえ?
 四十過ぎの産婆は、お彩をひととおり診た後、しげしげとその顔を見つめた。おすみの母おかねもその昔、産婆をやっていて、取り上げた赤子は数知れぬという。口うるさい婆さんとしてその名を知られていたが、また、その腕の良さでも評判であった。
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