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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第24章 第十話 【宵の花】  其の弐
 人それぞれにそれなりの事情があるから、患者の個人的なことには深入りしない。―それが、おかねの代から受け継いできたおすみの産婆としての信条であった。そのおすみの眼にも、この眼の前の娘が何かしらの事情を抱えて懐妊を素直に歓べぬことはひとめで判った。
 お彩は、亡き母が度々夜泣き蕎麦屋の店を出していたという場所に立ち、桜の樹を見上げた。そろそろ辺りに夕闇が忍び寄ろうとしてた。その中に、今を盛りと咲く桜が浮かび上がっている。その姿は、白い着物を纏った、たおやかな女人のような風情があるが、どこか儚げに見えた。
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