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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第24章 第十話 【宵の花】  其の弐
 この小さな橋を渡った先に京屋がある。
 しかし、我が身があそこに再び戻ることがあるとは、お彩には到底思えなかった。
―本当の私を知ったら、お前さんはきっと―。
 今になって、二年前、初めて結ばれた雪の日、出合茶屋で市兵衛が呟いた台詞が漸く理解できる。
―本当の私を知ったら、お前さんはきっと―。
 なにゆえ、京屋の主人であることをお彩にそれまで隠し続けていたのかと市兵衛に問うたお彩に、市兵衛がくれた応えであった。
―きっと、私から離れてゆくだろう。
 市兵衛は、そう言いたかったのかもしれない。
 あのときの市兵衛の淋しげな瞳がお彩の瞼に一瞬浮かんで、消えた。
 闇はますます濃くなってゆく。
 お彩の頬をひとすじの涙がつたい落ちた。


                 (第十話 【宵の花】了 )

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