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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第25章 第十一話 【螢ヶ原】  其の壱
 江戸でも随一と呼び声の高い呉服太物問屋京屋の内儀におさまったお彩と、伊勢次はもう全く別の世界に住む者になったのだから。
 お彩は伊勢次の顔を見た刹那、こらえていた涙がどっと溢れてきた。
「伊勢次さん、私」
 言うなり、大粒の涙が堰を切ったように次々と溢れ出てきて、止めようと思っても止められない。
「ごめんなさい。こんな時間に突然訪ねてきて、迷惑だってことは十分判ってるんだけど」
―でも、行くところがなくて。
 とは流石に口には出せなかった。左官の伊勢次はかつてお彩が奉公していた一膳飯屋「花がすみ」の常連客であった。
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