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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第25章 第十一話 【螢ヶ原】  其の壱
 伊勢次はお彩に惚れていて、何度か求婚までしていたのだが、お彩はその度に断ってきた。それでもなお、伊勢次は気を悪くすることもなく、お彩にとっては兄のような頼りになる相談相手であり続けている。
 伊勢次とこの前、最後に逢ったのは京屋に嫁ぐ三日前のことになるから、もう四カ月近く顔を見ていない。輿入れ前の挨拶にこの長屋まで訪ねたお彩を伊勢次は眩しげに見つめ、〝達者でな〟とただひと言、餞の言葉をくれたものだった。
 伊勢次の求愛をことごとく突っぱねておきながら、京屋にいられなくなったからといって、伊勢次の許に舞い戻るというのは実に身勝手なことだと、お彩自身よく判っている。
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